説明: monthly_title.gif

20118月号
12巻 第8 (通巻第120)
小唄集 (1915)



先月号で予告いたしましたように、過去10年間にわたってご好評をいただいてきた『今月の一枚』は今月号をもってひとまず終了することとし、しばらくお休みをいただいた後に、サイト全体の更新に合わせて再出発することにしたいと考えています。

最終号となった今月は、旧東京美術学校西洋画科(現東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻)の学生だった清一が、幼なじみの吉野八千代に贈った挿絵入りの『小唄集』をお届けいたします。清一はこのとき21歳で八千代は11歳、今から96年前のことでした。

『小唄集』は、石川啄木、北原白秋、前田夕暮、与謝野晶子、若山牧水らの短歌19首を取り上げ、1首ごとに墨と水彩絵具で描いた愛らしい挿絵を添えたロマンティックな作品で、40ページのアート紙を糸で綴じた縦16cm、横12cmの小さな本に纏められています。『今月の一枚』(2002年8月号) の『九歳の八千代』では、この『小唄集』の一部をご紹介いたしましたが、今回はその全体をご紹介いたします。

文学少女だった八千代は自分でも短歌を詠むことが好きで、1920年代に作った300首余りの短歌を書き綴ったノートが残っています。このノートの扉には「堰きあへぬ胸の嘆きは三十一文字 かきながしてぞなぐさまるべき」とあり、幼かった日々の思い出や季節の移り変わりなどを詠んだ歌をはじめ、清一への恋慕の情を詠んだものが少なくありません。この中に次のような2首があります。

   夕方の勤行ならむ谷中なる きみが住居に鉦きこゆるは
   谷中なるきみが住居のめずらしや 夕べとなれば木魚ひびきて

察するところ、清一は美術学校時代に東京下谷区(現台東区)谷中の寺に下宿していたのではないかと思われます。美術学校には学生寮がなかったので、地方出身の画学生が安上がりで通学に便利な谷中の寺を下宿にしていた例はいくらもあったようです。

余談はさておき、さっそく『小唄集』のページをめくってみることにいたしましょう。

  (裏表紙)

▲ 鈴木清一作『小唄集』(1915年)、個人蔵、左:おもて表紙、右:裏表紙

(扉)

▲ 扉 「小唄集 鈴木清一作 MAR.28, 1915」と記されていることから、美術学校の春休みに
水戸へ戻った清一が、八千代にこっそりと手渡したものと思われます。これを貰った八千代は
どんなに嬉しかったことでしょう。彼女はこの『小唄集』を終生宝物のように大切にしていました。

(椿)

▲「椿」 あさましく雨のようにも花おちぬ わがつまつきしひともとの椿  晶子

(子)

▲ 「子」 ごむまりのはづまずなりしさびしさを 壁になげてはかなしめるかな  哀花

(接吻)

▲ 「接吻」 アマリリス息もふかげに燃ゆるとき ふと唇はさしあてしかな  白秋  

(つみくさ)

▲ 「つみくさ」 花見れば花のかはゆしつみてよし つむとも何のなぐせめにせむ  牧水

(春の陽)

▲ 「春の陽」 こころみに眼とじたまへ春の日は 四方に落つる心地せられむ  夕暮

(接吻)

▲ 「接吻」 暖きあかるき底へ沈みゆく くちづけられし若きたましひ  夕暮

(ひばり)

▲ 「ひばり」 からくりめける我の心のはたらきの はたと止れりひばりうららうらら  牧水

(矢車草)

▲ 「矢車草」 にほやかに君がよき夜ぞふりそそぐ 白き露台の矢車のはな  白秋

(向日葵)

▲ 「向日葵」 水のめば朝の洋杯に牛乳の にほひ沁みをりひまはりのはな  哀花

(合歓の花)

▲ 「合歓の花」 いつ知らず夏も寂しう更けそめぬ ほのかに合歓の花さきにけり  牧水

(つわくさ)

▲ 「つゆくさ」 わがむすめもまっしろな靴を涼しげに はくやうになれりつゆくさのさく  哀花

(砂)

▲ 「砂」 東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれてかにとたはむる  啄木

(月見草)

▲ 「月見草」 月見草花のしをれし原行けば 日のなきがらを踏む心地する  晶子

(恋)

▲ 「恋」 大形の被布の模様の赤きはな 今日も目に見ゆ六歳の日の恋  啄木

(母)

▲ 「母」 くすりのむことを忘れてひさしぶりに 母に叱られしをうれしと思へる  啄木

(秋の夕ぐれ)

▲ 「秋の夕ぐれ」 君きぬと五つの指にたくはへし とんぼはなちし秋の夕ぐれ  晶子

▲ 「眼」 眼とづれど心にうかぶなにもなし さびしくもまた眼をあけるかな  啄木

▲ 「子」 児を叱れば泣いて寝入りぬ 口すこしあけし寝かほにさはりてみるかな  啄木

▲ 「つばくらめ」 つばくらめ小雨にぬれぬわが膝は ただいささかの涙にぬれぬ  晶子

今月までのバックナンバーは、ページの最下段をご覧下さい。


戻る  トップページへ  このページのトップへ  バックナンバー


バックナンバー


2011

 

7月:『実りの秋』
6月:『白い草花』
5月:『笛を吹く童子』
4月:『白老にて』
3月:『おひな様』
2月:『蕗の薹』
1月:『庭にて』

 

2010

2009

12月:『花』
11月:『青い皿と柘榴』
10月:『静物』
9月:『赤い屋根』
8月:『初夏の山』
7月:『からたちの花』
6月:『赤絵の扁壷』
5月:『静物』
4月:『山さくら』
3月:『花瓶と蜜柑』
2月:『水戸神崎寺の銀杏木』
1月:『年賀状』

12月:『黒い犬』
11月:『白百合』
10月:『晩秋』
9月:『秋立つ』
8月:『長崎眼鏡橋』
7月:『舞子の松林』
6月:『筍』
5月:『雉(きじ)』
4月:『橋本邦助氏像』
3月:『海が見える風景』
2月:『画室の裸女』
1:『緑の中の牛』

2008

2007

12月:『赤松の丘』
11月:『紅椿』
10月:『りんどう』
9月:『七歳の秋』
8月:『画室の裸女』
7月:『洞爺湖』
6月:『本栖湖』
5月:『武庫川堤』
4月:『舞子風景』
3月:『風景(1)
2月:『浴女』
1月:『早春』

12月:『晩秋の御堂筋』
11月:『柿とざくろ』
10月:『静物』
9月:『森』
8月:『冬の赤松』
7月:『静物』
6月:『新楼の家』
5月:『冬の海』
4月:『初秋の丘』
3月:『蘭』
2月:『横臥する裸婦』
1月:『耕三生後八か月』

2006

2005

12月:『水戸桜山の秋』
11月:『秋果』
10月:『小菊』
9月:『小屋』
8月:『静岡風景』
7月:『海岸の風景』
6
出版のご案内
    『孤高の画家・鈴木清一の作品と生涯』
5月:『明石城址』
4月:『青い花瓶の水仙』
3月:『戦前の旧居留地風景』
2月:『室津の梅』
1月:『雪の月見山』

12月:『神戸山手風景』
11月:『秋の渓流』
10月:『天王山農場本館』
9月:『芙蓉』
8月:『ぶどうと桃』
7月:『街頭スケッチ』
6月:『六甲風景』
5月:『若葉の明石公園』
4月:『神戸山手風景』
3月:『神戸メリケン波止場』
2月:『水戸県庁前堤の並木』

1月:『青いリボンの少女』

2004

2003

12月:『山本五十六元帥の生家』 
11月:『月見山晩秋』
10月:『ぶどうと西洋梨』

9月:『中之島公園』
8月:『山百合』
7月:『丹頂鶴』
 
6月:『月見山の家の庭』
5月:『舞子の風景』

4月:『鬼塚貫一氏像』
3月:『倉敷の家』

2月:『早春』
1月:『自画像』

12月:『少女』 
11月:『秋深まる』
 
10月:『染付け皿と秋果』
9月:『窓からの風景』
 
8月:『石廊岬』
7月:『婦人像』
6月:『水戸弘道館』
 
5月:『布引の新緑』
4月:『山ざくら』
3月:『水仙』

2月:『早春の六甲』
1月:『小菊』

2002

2001

12月:『根室原野の鶴』
11月: 『筑波山』
 
10月: 『篠原本町の庭』
   
9月: 『八千代像』
  
8月:『九歳の八千代』
  
7月:『会下山風景』
6月:『舞子の松』
5月:『赤い本』

4月:『菊池辰重氏像』
3月:『代々木風景』
2月:『春のうた』
1月:『雲と牛』

12月:『天王山農場』
11月:『初秋』

10月:『月見山風景』
9月:『孔雀』

 

  戻る  トッ プページへ   このページのトップへ  バックナンバーのトップへ